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hirano関数@2014/4/1 11:36
スニペット「骨」

こんにちは、関数です。

今回のスニペットは「骨」です。

 

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虎は死して皮を残し人は死して名を残すと言うが、骨が残ることを忘れている。しかも、面倒な保存加工が必要な皮や、大事にしたがるのは本人ばかりの名なんぞに比べたら、骨のほうがよっぽど確かである。どうかすると五千万年間くらい残る可能性がある。

 

死んでもこれくらい頼もしいのだから、生きている間はもっと頼もしい。

 

恋人同士が情熱的にひしと抱合う。それはもちろん、愛しい人の骨の手応えを感じようとするのである。だって骨が無ければ、ぐんにゃりするばかりでちっとも面白くない。骨が骨を求めて喜んでいる。だから、頭蓋骨と頭蓋骨をこつんと衝突させてウフフと笑ったりする。

 

そんなことを新浜則子がぼんやり考えたのは、骨を折ったからであった。

 

苦労したのではなくて、怪我をした。より正確に言えば、苦労して重たい段ボール箱を抱えて階段を上ったら右腕がひび割れた。

 

階段から落ちて骨折するなんて、まるで年寄りみたいである。厭だわ、と思ったが則子はそれで否応なく、年齢を実感することになった。則子は今年で五十六歳になる。ただ、咄嗟に腕をついたから腕なのであって、そうした反応さえできずに頭を打って重傷を負うほど老いてはいない、と考え直して自ら慰めた。

 

腕を骨折するとどうなるか。それは格別の痛みである。

 

何を当然のことを、というところだが則子は、想像していたのとかなり違う性質の痛みを痛がった。

 

怪我した直後はさほど痛くなかったのである。気分が落着いてから、だんだん痛くなったのである。それも痛いというより「熱い」に結構近く、腕の中身だけ火傷したような感覚である。医者に行った。

 

あんなに普段は頼もしい骨が、傷ついている。ギプスと包帯に取り巻かれた腕の中心で、骨が、いつになく弱音を吐いている。則子は骨を愛おしく思った。日頃から見栄っ張りの男が何かのことで心底しょげ返っているのに似ている。息子を育てていて、たまに、そうした場面があったことも則子は思い出した。

 

そんなことを考えているとますます、骨が愛おしくなった。そう言えばこのぐるぐるの包帯はきれいな骨の色をしている。骨を撫でてやるようなつもりで則子は、左手で何度も何度も包帯を撫ぜた。

 

骨、というだけで何だか怖い物と思われているようなフシが世間にはある。どうして怖いのだろう。一体どこが怖いと言うのだろう。こんなにも、可愛らしいのに。

 

 

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この短い話はこれでおしまいですが、

しかし言語の鎖は連なる。

次回のスニペットは「火傷」でお送りします。

 

※記事中の画像はウィキメディアコモンズより転載