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hirano関数@2014/4/7 12:43
スニペット「迷い」

こんにちは、関数です。

今回のスニペットは「迷い」です。

 

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鯛焼きの箱がある。蓋を取ると四尾、並んでいる。焼立てのやつを詰めて来たから、蓋の裏側はしっとり露に濡れている。

 

鯛焼きは喰うもので、したがってこれから喰おうとするのだが、四尾いっぺんに喰うことは人間の口蓋構造からして不可能である。いずれか一尾を選ばねばならん。ここに迷いが生じる。しかし選ばねばならん。

 

さて、どいつが一番、喰われたそうな顔つきかな。

 

まるで冗談のように聞こえるかも知れないがそのような判断を、我々は誰しも、そう明らかに意識しないにせよ、下しているはずである。大手まんぢゅうにおける内田百閒先生は、ただ単純にそれを言葉にして仰っただけのことである。

 

こんなときに鯛焼きの顔つきなんか見やしない、箱に収まった位置からして最も手近なやつを手に取るまでだ、という人もいるかも知れない。だがそれならそれで、最も手近な位置にいたやつを群れの中でも特別な存在とみなしている。真っ先に喰われる権利あるべき者と認めている。贔屓しているわけである。顔つきを観察して判断するのと、何か違いがあるだろうか。

 

こういう判断は、コンピュータには不得手であろう。コンピュータを「電脳」と、人や犬や鳥の中枢神経系を「自然脳」と、取敢えずそう呼ぶことにするとして、鯛焼きの表情を読むのは自然脳の特技と見ることができる。

 

電脳にそれをやらせようとすれば、形状、温度、湿度、密度、色、といった幾つかの要素から成る抽象モデルを予め入力しておいて、それと照し合せて判断することになるのだろう。お望みなら、多少の乱数を加えて偶然の要素も絡ませてもよい。だがしかし、これはあまりうまく行かないはずである。

 

たとえば、センサを接触式にするか非接触式にするかという問題がある。観察は対象に影響を与えずにいないからである。さらには、時が経つごとに各々のパラメタはどんどん変化する。もともと微妙な判断を行おうとしているのだから、その経時変化は、とても無視し得ない巨大な誤差となるに違いない。

 

自然脳は、こういう判断を即座にやってのける。鯛焼きひとつ喰うのにいちいち迷っていては、短い人生を送る上で差障りがある。

 

犬は、どんなサンダルを盗み、どんな木の下に穴を掘り、どんな埋め方をすべきか、判断をしている。

 

猿は、どんな岩に上り、どんな温泉に入り、どんな相手の背中の蚤を取ってやるべきか、判断をしている。

 

鴉は、どんな枝を巣に用い、どんな生ごみ袋を突っつき、どんな通りすがりの人間にアホーと叫んでやるべきか、判断をしている。

 

亀だって虫だってアメーバだって、似たようなことをしているだろう。判断の要素がより多いかより少ないかという差異だけがある。その差異だけしかない。むろん、アメーバに脳なんか無いなどと揚げ足を取ってはいけない。自然脳もよく見てみれば一つ一つの細胞の集合体に過ぎない。

 

私は、鯛焼きの顔を見る。それから、一番喰われたそうな顔つきをしている鯛焼きを喰い千切った。喰い千切られて半分になった鯛は満足気な表情に見えた。そうして、他の三尾の表情が変わったように見えた。

 

 

****

 

この短い話はこれでおしまいですが、

しかし言語の鎖は連なる。

次回のスニペットは「箱」でお送りします。

 

※記事中の画像はウィキメディアコモンズより転載