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hirano関数@2014/4/15 11:41
スニペット「根性」

こんにちは、関数です。

今回のスニペットは「根性」です。

 

****

 

「友よ。貴様の胸に宿る炎をいつまでも絶やすな」

 

「むろんだ、貴様もな」

 

「うおおお」

 

「うおおお」

 

こういうのを根性の別れと言う。

 

青年期に特有の、或る種の同性愛的な、もしくはこう言って良ければ西洋的な、こうした友情というものは昨今の日本の世間には絶滅しつつある。ひょっとすると、それは始めからそもそも、詩歌や物語の中だけにしか存在しなかったのかも知れない。

 

間宮基明という青年がおり、久保寺祐という青年がおり、二人は友であった。どのように友であったかと言えば、たまに、殴り合うほどの親しい友である。普通そういう友は滅多に得られるものではない。

 

だから互いにとって「大切な存在」かと言えばもちろん、そんなことは有り得ない。青年の友情には、その手の抽象的で薄気味悪い考えは入り込む余地などない。ただ何となく相手がそこに存在しているだけである。代りのない唯一の存在があるだけである。

 

見比べれば、久保寺のほうが小柄だが、がっしりとした手足を備えていて、鍛え込まれて頑健そうである。間宮は長身痩躯で、どちらかと言えば学究の肌合いがあるけれども、ひ弱な印象は与えない。

 

会えば、大概は間宮のほうが陽性で口数が多く、久保寺のほうは相槌を打つ側になる。ただ何かふと思い付いてたちまち行動をやるのは久保寺で、間宮はそれに付合ったり、ただ勝手にしろと眺めていたりする、という情勢になる。

 

女の子の前に並べてみれば、比較的人気があるのは、どうも間宮のほうらしい。小柄とは言えちびではないし、二重まぶたの目元がいかにも精悍である。久保寺の顔の造りはどことなく、もっさりしている。まぶたは一重である。

 

殴り合えば――別にどうと言うこともない。そんなことは、さしたる意味を持たない。何となく腹が立ったから殴った、殴られたから殴り返した、殴り返されたから、とその程度のことである。女からすれば一大事に見えるのだが男にとっては些事に過ぎない。

 

二人は友であるから、互いに似たところがあり、互いに真反対なところがある。即ち、他のあらゆる種類の人間関係と同じことである。即ち、友情に合理的な根拠などはないのである。

 

友である間宮と久保寺とに、今生の、と言うほどでもないが別れの時が訪れた。久保寺がデンマークに留学することになった。そして事の成行きによっては、そのまま永住する可能性があるという。

 

「中途半端に帰って来るんじゃあねえぞ」

 

と間宮は言った。

 

「適当に全力でやるさ」

 

と久保寺は言った。

 

拳を軽くぶつけ合って、二人は空港で別れた。

 

 

****

 

この短い話はこれでおしまいですが、

しかし言語の鎖は連なる。

次回のスニペットは「まぶた」でお送りします。

 

※記事中の画像はウィキメディアコモンズより転載